夏のかおり

この時期バスが走っているのを見ると思い出す出来事がある。



20年ぐらい前のこの時期に友達と大型のショッピングセンターに、遊びに行った帰りの出来事だ。


朝から遊びに行って小学生のすることと言えば、ゲームセンターで遊んで、お昼はマックで食べて、あとはお菓子を買うかぐらいであるが、いつの間にか夕方になってしまう。


私は友達と別れて1人でバスに乗った。

5分ぐらい経った時に財布がポケットにないことに気付く。


かなり焦った。

座席の下や周囲をキョロキョロ探しても見つからない。


冷房が効いてる車内でも冷や汗が出てくる。

激しく焦った。


大人になった今なら運転手さんに行って事情を説明して後日支払う話をすればよいのだが、免許証やクレジットカードをなくしたという意味で、多少なり動揺する程度だ。


しかし小学生の自分にはお金がないのにバスに乗っている状況は大人では味わえない何とも言えない焦りと恐怖感だった。

少しずつ自分の降りるバス停が近づく。


その時だった


爽やかな20歳ぐらいのお兄さんが

「これで足りる?」

と言って500円玉を私に差し出した。

「はっ、はい、足ります!でも…」

見ず知らずの爽やかなお兄さんはこう続けた

「困った時はお互い様やん」

泣きそうだった、いや泣いてたかもしれない。

その時バスが停車してお兄さんが降りようとした。

「名前と連絡先を教えてください!」

と聞くと

「これから困っている人が居たら助けてあげて」

そう言い残しニコッと笑ってバスを降りた。


もちろんお金貸してくれませんか?など一言とも言ってない。

自分が財布を探して焦っている様子だけで、状況を読み取り500円を差し出してくれたのだ。

 

無事家に帰って親に今日のことを話した。

「あんたも困ってる人を見掛けたら助けてあげなさい」

そう笑顔で話してくれた。

今でもあの日を思い出すと胸を締め付けられる何とも言えない気持ちになる。


お兄さんありがとう

お兄さんのおかげで少しは人の気持ちのわかる大人になれたと思います


今日もあの日のように青い空が広がっている